企画展「ふたたび開く 鄭周河 写真展」
—「奪われた野にも春は来るか」—
日時:2021年1月10日(日)〜1月31日(日)
2021年3月1日(月)〜29日(月)(2月は冬季休館)
場所:アウシュヴィッツ平和博物館企画展示室
主催:認定NPO法人アウシュヴィッツ平和博物館
※ご来場の際は感染症対策のためマスク着用をお願いいたします
原発事件(人災による事故・災害)から10年が経ちました。 2011年3月11・12日巨大な地震と津波そして原発事故による放射能の拡散で一瞬にして琵琶湖の1.5倍ともいわれる国土が奪われたのです。故郷を追われた人々は16万人を超え、生業も生活も一瞬とだえ、コミュニティも文化も失われました。あの時日本人の多くは恐怖と不安に陥りながらも、人命軽視・経済優先・蔓延する浪費等、政治・経済のあり方そして自分の生活に思いを巡らし反省もし、これを機に日本は変わらなければいけない、変わると考えたのではなかったのではないでしょうか?それとも一瞬の思い違いだったのでしょうか。
鄭周河さんは韓国の百済芸術大学の教授。2003年には韓国内の原子力発電所周辺に暮らす人々の日常を「隠蔽された不安」と感じ、写真として見せたかったという作品を「不安・火中・A Pleasant day」というタイトルで発表されています。福島第一原発事件後は何度も現地に足を運び2011年11月〜2012年2月に撮影された作品を「奪われた野にも春は来るか」として発表され、2012年3月にソウルの平和博物館で展示されました。(写真集も出版されています)2012年春以降日本でも南相馬市の中央図書館での展示を皮切りに沖縄まで6ヶ所で展示されました。2016年4月〜6月には私たちの館でも展示会とギャラリートークを開催、続いて8月には長野県松本市と富士見町で、さらに2017年2月〜4月には高麗博物館(東京)で開催されました。
写真のタイトル「奪われた野にも春は来るか」は韓国の歴史家・平和活動家である韓洪九(ハン・ホング)教授の提案で詩人 李相和(イ・サンファ1901年〜43年)1926年作の詩の題名から付けられました。李相和は日本帝国主義の植民地支配に抗した近代朝鮮の代表的な詩人です。1920年代「産米増産計画」により土地取り上げが進み、多くの農民は「根一生活の基盤—を抜かれ、その時その瞬間、ある人は満州に、ある人は日本に渡り、ある人は山奥に遁れ、ある人はやむなく小作人となり細々と暮らさなければならなかった」(韓教授による)李相和(1926年作)の詩は当時韓国朝鮮のあらゆる人々の気持ちを詠ったものでした。しかし、このテーマは日韓両国民に大きな課題を提起しています。互いに自らの痛みや苦しみをのり越えて、相互の理解に達するか。特に日本国民にとっては鋭い問いかけとなっています。
鄭さんの一つひとつの作品にはキャプションがありません。「見る人の自由な想像力にゆだねようと思います」「春は朝鮮語では直視するという意味もあります。奪われた野にも春は来るかという問いを皆さんと共有したいのです」と鄭さんは語っています。
この写真展が、この問いに応えられるよう私たちも願っています。
元博物館理事長 塚田一敏