朝日新聞2005年(平成17年)10月21日(金)
新聞掲載記事

84歳、収容所語る肉声
あすから4カ所で「最後の機会」

 アウシュビッツ強制収容所からの生還体験を聞く講演会が22日から県内4カ所で開かれるのに先立ち、講演するポーランド人、アウグスト・コバルチクさん(84)が20日に来日し、白河市のアウシュヴィッツ平和博物館を訪れた。生存者の高齢化が進み、来日して講演できる人は減っており、主催者側は「おそらく直接話をきくことの出来る最後の機会。収容所の体験を聞き、歴史を伝える証言者の一人になってほしい」と呼びかけている。

 講演会の主催は、NPO法人アウシュヴィッツ平和博物館と開催地の実行委員会。戦後60年を記念して、同収容所の生存者から、当時の記憶を直接語りかけてもらおうと計画した。
 だが、計画は、生存者の高齢化という「壁」のため、何度も変更を余儀なくされたという。当初要請したポーランド人の芸術家ユゼフ・シャイナさん(83)には「具合が悪い」と断られ、次に内諾を得たカジミェシ・アルビンさん(83)からは7月、「体調不良」との連絡があった。

 「三度目の正直」でお願いしたのが、今回来日したコバルチクさんだった。1940年、19歳で収容所に送られたが、42年に仲間と逃げ出した。

 舞台俳優、演出家としても活躍しており、日本のテレビドラマ「白い巨塔」にも出演したことがある。コバルチクさんは、何度も心臓発作を起こしており、ひざの具合も悪いという。「いつ発作が起きるか分からない。

これが最後になるかもしれないと、常に思って講演している」と話す。

 だが、当初の体験を多くの人に聞かせたいという思いが強い。「ガス室もホロコーストも存在しなかったという人がいるが、収容所の事実に根拠があることを伝えにきた」と、しっかりとした口調で語った。

 講演会では、アウシュビッツを紹介するビデオを上映した後、コパルチクさんが通訳を介して約90分間、体験を語る。

 同館の小渕真理館長は「一口に生存者と言っても、多くの人の前で語れる人は、どんどん減っている。平和博物館が生存者を呼べるのは、これが最後になると思う」と話す。