小渕館長のつれづれ

レスキュアーズ(いのちの救済者)

 

 年明け早々から、テレビを見ても、ラジオを聴いても、これでもか、というほど暗いニュースばかりで嫌になります。今や日本人は「一億総不安」「総不信」。「自分さえ良ければ、他人はどうなってもよい」という自己中心で冷たい社会! でも、本当にそうなのでしょうか? 悪いニュースばかりに偏った報道をしてはいないでしょうか。ものごとには、善と悪の両面があるはずです。

 日本にはよい面も沢山あります。一生懸命頑張っている優良企業も沢山あるし、阪神大震災以来、ボランティアを志願する人々の輪が広がっています。福祉や介護職など人を助ける仕事に従事する若者も増えているし、「いのちの電話」など弱者救済の活動を行う団体も増えています。そういったよい面をもっと伝えなければ、現実が見えてこないのではないでしょうか。

 それに、幸福の尺度を「お金」だけで、推し量ろうとする風潮が、社会をおかしくしているような気がします。大量消費社会の中で、私たちは何かを買わなければ幸福感を得られないかのように思い込まされていますが、お金では買うことのできない幸せが沢山あることを忘れてはいけないでしょう。

 「幸せ」と感じる尺度は人によって違います。それを無理やり一つの価値基準に当てはめるから社会が閉塞状態に陥り、かつては考えられなかったようなモラルの低い犯罪が、多発するのではないでしょうか。

 新成人の世論調査の結果からも、若者たちが経済的な豊かさより、人間同士の心のふれあいや温かさを重視する人生観にシフトしていることがうかがえます。多くの人々が人間性を取り戻したいと思っている表れでしょう。弱肉強食の競争ではなく、共に生きる、「思いやりの心」が社会を元気にするカギなのではないでしょうか。実は、私たちの博物館には、そのための格好の教材があるのです。「レスキュアーズ(いのちの救済者)」という展示です。

 第二次大戦の最中、ナチスに迫害された人々を救った市井の人たちを肖像写真と文字パネルで紹介するコーナーです。あの六千人を救った杉原千畝氏のように、命の危険を冒してまで見ず知らずの他人を救った人々。「当たり前のことをしただけ」と謙虚に語りかけてくるまなざしからは、「他者への思いやり」が、人間性回復のキーワードであることを実感します。

 私たちは、アウシュヴィッツという戦争の惨禍を通して命の尊厳と平和の価値を学び伝えると同時に、杉原千畝、コルペ神父、アンネ・フランク、そしてこのレスキュアーズなど、暗黒の時代に希望の光となった人々の存在も、伝えています。人間まだまだ捨てたものじゃない。明るい未来へとつながる展示をぜひご覧ください。詳細は同博物館(電話0248-28-2108)まで。

2008年2月2日 福島民友新聞に掲載「みんゆう随想」
アウシュヴィッツ平和博物館長 小渕真理