小渕館長のつれづれ

アンネの日記

 「希望を持ち続けていることに自分でも驚いています。すべてが困難に思えるのにね。でもあきらめません。人間の『良心』を信じているからです」

 アンネの日記の一節です。第二次世界大戦の最中、ナチスによる激しい差別と迫害という絶望的な状況の中にあっても決して希望を捨てなかった少女の思いは、60年以上たった今も世界中の人々に勇気と希望を与えています。

 私たちアウシュヴィッツ平和博物館にも「アンネ・フランク」の展示室があります。写真好きだったアンネの父親が撮ったという当時としては珍しいスナップ写真や「隠れ家」の模型、昭和27年に出版された日本語版「アンネの日記」の初版本、また、アンネと同世代のドイツの少年たちに参加が義務付けられたヒトラーユーゲント(ナチス少年団)の団員証などが展示され、アンネが生きた時代を体感できる構成になっています。

 1942(昭和17)年の初夏、アンネの一家はナチスの迫害を逃れるために「隠れ家」に身を潜めました。外の世界では何の罪もない大勢の人々が、ユダヤ人であるというだけで強制収容所へ送られ殺されていました。そのような時代に、中学生になったばかりのアンネは学校の友だちとも別れ、昼間は物音一つたてられない「隠れ家」に身を潜めることになったのです。「アンネの日記」のほとんどはこの隠れ家で書かれました。

 2年後、何者かの密告によって隠れ家が発覚、一家は収容所に送られ、アンネは15歳の短い生涯を閉じました。しかし、彼女の日記帳は支援者によって大切に保管されていたのです。

 60年以上過ぎた今でも、アンネの「希望のメッセージ」は多くの人々に勇気を与え続けています。アパルトヘイト(人種差別政策)に立ち向かい、南アフリカ初の黒人大統領となったマンデラ氏も「アンネの日記」に勇気を与えられた一人だといいます。

 「二度と惨禍を繰り返させてはならない」という思いから、人々が平和に共存できる社会の実現をめざし、人類の負の歴史遺産である「アウシュヴィッツ」を学び伝える活動を行ってきた私たちにとって、9・11テロから今日のイラク戦争へと続く「暴力の連鎖」は、大変な衝撃であり深い挫折感に襲われています。

 「なぜ、歴史から学ぶことができないのだ…。なぜ、同じようなことを繰り返すのか…、私たちの活動は無駄だったのか…」と、絶望的に思えることもあります。しかし、そんな時、アンネの日記の一節が頭に浮かぶのです。

 「希望を持ち続ける」「あきらめない」「人間の『良心』を信じる…」。ぜひ、当館の「アンネ・フランク・ぎゃらりー」にお越しください。勇気を、そして希望を与えられること請け合いです。

2007年6月2日 福島民友新聞に掲載「みんゆう随想」
アウシュヴィッツ平和博物館長 小渕真理